実績基準、信頼性基準、機能性基準、サポート品質基準の総合的なチェックを経た後、導入施設側としてどのようなアプローチ手法で最終的な価格交渉を行うと効果的か、またどのような情報を提示することで自社に有利な条件で最適なコストをメーカーから引き出すことができるかについて経験者の視点で触れていきたいと思います。

RFPを明確にしておく

RFP(Request for Proposal)は、直訳では「提案のための依頼」となり、IT機器の選定に限らず適切なシステム提案を受けるためにビジネス全般で必要なデータ、内容、項目となります。

つまり、発注側企業の担当者が、システムベンダーやメーカーに対してシステム構築や設計を依頼する際に、自社の施設に適したシステムに必要な要件、仕様、実現したい目的(用途や解決したい課題)等を示す要件定義です。

これだけ提供メーカーの多い順番待ちシステムの導入・選定においては必ず事前に用意しておくべき要件ともいえます。

順番待ちシステムのRFPについて、先ず決めておきたいのは「用途(機能)」です。

そのシステムはどんな業界業種業態で使うのか、飲食店か、自治体か理美容店か商業施設か、また飲食店でも焼き肉屋か回転寿司かしゃぶしゃぶか、食べ放題のビュッフェ形式か、といった細かい利用環境を事前に正確に伝えておくことで必要な機能、オプションなどが変化します。

また、多店舗展開のチェーン店が利用するのか、どの程度の店舗数で利用するのか、個人店で利用するのかによっても必要な機能や稼働環境が変わってきます。チェーン店特有の機能などもメーカーによっては用意がある場合があります。

またシステムを導入して叶えたいこと、GOALを明確にしておくことが重要です。

店頭の混雑回避だけなのか、クレーム対策なのか、店の前にできる行列をなくし近隣の迷惑を回避したいのか、ユーザーの利便性をあげ、猛暑や極寒の中で立って待ってもらう利用環境を改善したいのか、リピーターを増やしたいのか、集客を強化したいのか、などなど様々な目的を優先順位を付けて決めておくことでより細かい機能とコストを切り分けた提案を受けることが可能になります。

更に忘れがちなのが、wifiや配線など施設側の機器配置環境についての情報です。

発券機を設置する環境がどうなっているかによっても必要な付属品やオプション、工事費など予期していないコストがかかってくる場合があります。

そういった情報を事前に伝えておくことで、最適な提案を最速で得られることにも繋がり、結果的にお互いに生産性の高い選定商談が実現することで無駄が省かれていくのです。

優先順位付けと許容範囲を明確にしておく

また、RFP策定においては導入側の施設、企業における優先事項を明確にしておくことも重要となります。

担当者はRFPを100%満たすシステムやサービスに出会うことはまず不可能であると念頭に置いてコンペに臨むべきであり、デメリットを正確に伝えることを厭わない企業や担当者にこそチャンスを与えるべきであると考えます。

コストだけを追い求めればよいのか、それともSLAや品質とのバランスでコストをこの程度まで許容すれば良いのか。それは企業としての意思決定に委ねられます。

そういった観点から、RFPの全てを完璧に満たすとした提案内容や担当者に対しては「本当にそうか!?」と精査し真実を見極めることも必要となります。

同時に全ての条件を満たさずとも何を優先し、満たさない部分は何を以てカバーできるのか、その許容範囲はどの程度か。

といった幅をもたせた補足条件を事前に社内で諮っておき、RFPと合わせて持ってコンペや商談に臨むことで意思決定をスムースに運ぶことができるようになります。

社内(RFP)協議の時間がとれない時はどうする?

また、そういった細かい条件設定や事前での社内協議の時間がとれない、すぐにでも導入しなければならないという状況もあるでしょう。そういった際でもこれだけは決めておく方が良いという情報があります。

それが、RFPに似た用語としてよく用いられる

「RFI(Request for Information)」

です。

これは、直訳すると「情報提供依頼書」となり、発注側企業がベンダーやメーカーに対して、提供者側の会社情報(規模や資本構成、反社チェック)や実績(導入施設数、業種業態毎、事業展開・継続年数)、提供可能なサービスの情報(主に機能やオプション、サポート体制面の情報)などの提示を求める書類です。いずれも適切なシステム提案を受ける上で必要最低限の情報となります。

本来、RFPとRFIを使い分けるシーンとしては、RFIは一次選考のための書類(主に資料や電話、メールなどで篩にかけることが多い)、RFPは二次選考の(実際に担当者に訪問やWEB面談等で会って直接話しを聞く)ための情報、資料というパターンが多いようです。

また、最近では、当サイトのような第三者視点の比較サイト、情報サイトを活用して企業情報や実績、提供可能なサービス範囲、事例などRFIと同等の情報量を得ることで、RFIを省略し一次選定を終えてから絞った企業に対してRFPを求めるという進め方も効率的です。

最低でもどちらかは決めて提案要請内容に盛り込んでおくことでより意思決定をスムースに運ぶことができるでしょう。

期末/月末/キャンペーンのタイミングを狙う

ここからはある程度の精査、選定企業の絞り込みを経た段階で最終調整を行うフェーズでの話になります。

初期費用やランニングコストがどうしても会社から与えられた予算を超えてしまう可能性が高い場合、コスト交渉を行うこととなりますが、ポイントは安易に価格だけ偏った安かろう悪かろうのシステムになってしまったり、強引な値下げ要求をしないことが重要です。

まず価格だけで決めてしまった場合、使ってみて想定以上にコストがかかってしまったという結果になる例が多いということです。必要な機能、用途を決め選定を行ったにも関わらず、それを無視して最後に価格だけで決めてしまうと、本来標準装備されていない機能を使う必要が出てきたり、サポートや保守に想定以上にコストが嵩んだりと予期せぬコストオーバーを招く場合があります。RFPを無視した価格依存の最終選定には注意が必要です。

また、かといって無理な値下げ交渉も危険です。企業活動において価格だけを引き下げられるコスト構造は本来あり得ません。つまり何か(サービスや機能)を削って値下げ分の帳尻をあわせる必要があります。メーカー担当者が要求に従ったとしても、初期費用だけ下がって後々ランニングコストやオプションコストが嵩んでしまったという悪循環を引き起こすリスクが考えられます。

更に導入後に関係が続いていく取引相手に対して初期段階で負の感情を抱かせることは中長期視点ではデメリットでしかなく、一方で逆に良い関係を初期段階で構築しておくことが長い目で見てメリットがあるのだという考え方のできる企業や担当者は最適なコストパフォーマンスを取引関係が続く期間において得られることが多いようです。

ではどうするか?

シンプルに企業には月単位、四半期、通期において締めのタイミングが必ずあります。各メーカーの営業マンはそれぞれ予算を与えられており月、四半期、通期で予算に対しての達成率を評価対象として見られています。

そういったタイミングをうまく活用してそれらの企業、営業担当にとってプラスになる提案や情報を加える(企業側に良い意味での前向きな意思決定材料付加する)ことで最後の最後で良い条件を引き出すことが可能になります。

その付加情報がそういった提供企業側が欲しいタイミングに実現することがある程度見えることでコストを調整可能になる場合があるのです。

将来的な規模感と中長期でのロードマップを提示する(具体的な絵図を見せておく)

ではプラスになる提案(付加情報)とはなにか?

ポイントは規模感とロードマップ(先を見せた具体的な絵図を定量的に提示すること)です。

コンサルティングなど労働集約型のサービスでない限りシステム関連商材には「規模の原理」が働く場合が多くあります。

例えば50店舗規模のチェーン展開している企業が導入を検討していた場合、単発で1店舗のみでの商談を行うよりも以下のようなシナリオをメーカー側に提示することなども非常に有効な価格交渉術となります。

例:

・初期導入時に5店舗を地域を変えテスト導入し、テスト実施期間は○月から○月とします。

・テスト導入期間におけるKPIは○○と○○と○○で設定し、それぞれのKPIに定量目標を設定します。

期間中の計測はこのように行いますとして具体的な内容を提示した上で、

・KPIが全てクリアできたら○月までに30店舗、○月までに全店の50店舗規模(全店拡張)導入を順次図ります。

・KPIの○○と○○のみがクリアできたら20店舗に拡大してみて、テスト期間をもう3ヶ月延長します。

・そのための将来を見据えた今回の導入案件となります。

などと具体的な根拠を以て規模感(最終的には全店導入を真剣に検討しているという将来絵図)をスケジュールとKPIを提示しておくことで、それがメーカーの社内でこの上ない価格交渉を引き出す、前に進めるための説得材料になります。

もちろん全く嘘の根拠のない数値やスケジュール、実現性のないロードマップではメーカー社内でも信憑性観点で却下となる可能性があるため、実現性のある絵図を引きその材料を以て価格交渉に臨むことが重要となります。

長期利用割引を引き出す

携帯キャリア各社には長期割など期間を契約時に縛ることで月々の通信料金がお得になるという契約形態があります(今は法律の関係で縛ることはできない環境になっていたかと思います)。

順番待ちシステムは実は長く使い続けることで施設側のオペレーションがフィットし生産性向上に拍車がかかったり、順番待ち予約など蓄積したデータをリピーター販促に活かせたりと、使い続ければ続けるほど効果やメリットを増幅させていくことができる長期利用に適したシステムの1つともいえます。

また、提供するメーカー側にとっては、毎月の利用料が収益として積み上がっていくストック型のビジネスモデルといえます。

つまり、複数年契約を初期段階で導入施設側から提示することでメーカー側にもメリットがあるわけで、それにより月々の利用料を引き下げるなどの提案も引き出すことができる場合もあるかもしれません。

是非一度試してみて下さい。