IPO前に入念な特許周辺調査が必要なワケとは?

ベンチャー企業が陥る一般的な事例としてIPO前に特許侵害の訴えをおこされるという事象がある。

しかし、それらの事案があまり表に出ていないのは両社間での和解により解決に至ることが多いためだ。

IPOをするような話題性のある企業はメディアや雑誌など露出が増える機会が増えるにつれ、企業の技術やサービス、ブランドが世に広く知られるようになる。

それらの情報を見た個人や法人から自社または自分が保有する特許や商標を侵害しているのではないかとした気づきを誘発し訴えを起こされるというパターンである。

上場前が警告するには一番の好機という危うさ

IPOの直前にもなれば証券会社含めた利害関係者が多岐にわたり、スケジュールも1日単位で明確に定められている。

よってそのタイミングになってから上場を延期したり、証券会社を変更したりといったことは考えづらい。

最近こういった事例があった。

とあるIT系のベンチャー企業がIPOを目指し日々奮闘している中で大手企業とのコラボが決まったことが原因でメディアへの露出が一気に増えることとなった。

更にそれらのメディア効果も相まって自治体や官公庁への導入も進み始めていた頃である。

そんな折、とある中小企業からベンチャー企業に対して、自社が保有する特許に関してベンチャー企業が侵害しているという内容の警告書が送達された。

ベンチャー企業側は、晴天の霹靂であったが、相手方の会社の規模も小さいことから、対話すれば解決できるであろうとその企業との交渉に臨んだ。

しかし、その会社は想定以上に高額な特許侵害の損害賠償請求と以降特許を使い続ける場合はライセンスFeeを毎月売上に応じて要求したのである。

その賠償額はベンチャー企業側が手持ち資金で払い切れる額ではなく、ロイヤリティのパーセンテージも上場のターゲットとしていた利益率に影響を与えるほどの高い料率で設定されていた。

警告を発した中小企業には経験豊富な知財部のスペシャリストが在籍し、上場前のタイミングが最も高額な賠償請求とロイヤリティの料率要求が可能なことを知って提示してきたと思われる。

ベンチャー企業はその紛争が上場審査に影響を及ぼす可能性を考慮し、IPOのスケジュールを見直すことができるかを証券会社に相談したが、それは不可能であることがわかった。

結果的にベンチャー企業はその法外な要求を呑むしか方法はなく、和解することになったという。

FTO調査は入念に

FTO調査とは、侵害予防調査とも言われ、企業が新製品や市場にリリースする前や提携交渉、投資交渉を行う際に相手方の企業の技術について行う調査のこと。
その企業が保有する技術や提供するサービス、製品が国内、海外の既存特許、あるいは既に公開済みとなる潜在的特許に抵触しないかなど、様々な観点から調査を行う。

該当技術やサービスに関係すると思われる特許公報を特定の番号を限定して調査を行いますが、弁理士や専門家の鑑定が必要なこともありそれなりの費用が発生する。

このFTO調査を簡易やいい加減に行ってしまうと検索式の設定に不備があるなどし網に穴が空いた状態で調査を進めてしまうこととなったり、例えば海外特許も視野に入れる必要がある場合は、海外の競合企業の特許権を見逃してしまい、権利行使を受けてしまったなどのトラブルも発生する。

海外特許に関して言えば、特許侵害を訴えてきた海外の原告側の国で起訴されてしまうと、現地及び現地語で裁判を行う必要があり地理的に不利になって敗訴したという事例もあるため注意が必要である。

それだけに上場前や提携前、投資前のFTO調査は時間と費用をかけ入念に行う必要がある。

国内のFTO調査の実態

国内にも優れたFTO調査専門会社や知財事務所が多くある。

しかしながらFTO調査を実施したにもかかわらず多くのベンチャー企業がIPO前に同様の警告によって和解を余儀なくされる、上場延期となってり大幅な計画の変更に追い込まれるケースが多い。

また海外に比べ日本ではまだまだそういった事例が表に出ることは少ないこともあり、

FTO調査を軽視しているベンチャー企業(大手企業や投資会社に至っても)多く存在しているのが日本の知的財産に対する考え方の危うさであり、甘さであると感じる。

厳密にいうと、FTO調査会社や知財事務所は調査計画を提示した上でここまで網をかけるならこの工数とこの費用というように方法と手段は提示しているはずであると考えられる。

どちらかと言えば調査を依頼するIPOベンチャー企業側であったり投資会社側が費用や時間を短縮化するために調査レベルを安易に引き下げ簡易な調査に終始してしまっているのではないかとも推察される。

IPO上場時と共に多い特許侵害ケースとは?

FTO調査を比較的甘く考える(またはそういったリスクヘッジ対策があることすら知らない)傾向にある業界がある。最近特にDXというワードでIT化、機械化が進む外食業界である。

現場となる飲食店におけるDX化のスピードに対してリスクに関する知識が全く追いついていない業界ともいえる。

特に危険をはらんでいるのが大手外食企業が手掛ける「自社開発」と言われる模倣行為である。

一見「自社開発」というとアイデアの着想部分から企画、開発、製造、流通と1から10までを自社内で全て賄っていると考えられるが、実はそうではないケースが散見されている。

彼らは自社開発を知財部を絡めて進行しておらず営業部や開発部といった知財に知識の乏しい部署や担当者が主導し、経営層のリスクに関しての無知さゆえに起こっている日本特有の事象であるといえる。

取引先の優越的な立場を使って実際に自店舗でメーカーの機器を導入しながらリバースエンジニアリングなどで仕組みを可視化したり、

共同開発という名目でシステムの具現化、実装部分をその道のプロであるメーカー側から情報を得つつ、自社で着々と模倣したシステムを作り上げてしまう大胆なケースが横行しているという事例もいつくか情報が入ってきている。

事実であれば株価に影響を与える大失態である。

協力したメーカー側からすれば、いつの間にか重要な部分や情報だけを抜かれ結果的に製品は納品されることはなく、開発にかけた人的リソースやコストは徒労に終わってしまうという。

短期的に見れば、賢いやり方のように見えるが、訴訟が頻繁に行われている海外においてはそういった行為自体が裁判を不利に運ぶ物的証拠を増してしまうという自殺行為であると言われている。

自社で開発してしまえば、メーカーに利用料を毎月支払うよりもコストが下がるといった安直な考え方でやっているケースが多いようであるが、結果的にその利用料の数千倍もの賠償額を請求されるリスクがあるというのに、、

また、メーカー側にも大いに責任がある。共同開発を行う場合は提出物や情報開示領域を厳密に契約で縛った上で、著作権、特許権などの権利関係も事前に明文化するなどが防御策が必要である。

更にローンチした製品の販売計画も両者で目標設定をした上で共同開発に協力すべきであろう。

特に特許権を保持しないまま情報だけを抜き取られる例が国内にはまだ多く存在しており、その辺の対策、知識についても学んでいく必要があるというのが現状である。

直近で流通業界において発生したユニクロとアスタリスクのレジに関する特許訴訟が類似した例になるであろうが、アスタリスクが優れていたのは特許を固め防御策を講じた上で同社と取引を行っていた点にある。

レジを自社開発したユニクロ側はまさか特許がとられていたとは予想もしていなかったのであろうし、まさか取引先が訴えてくるとは予想もしていなかったのであろう。

訴えを起こされたユニクロ側もFTO調査を実施したかどうかは不明ではあるが、実施していたとしてもそのレベルや精度は低かったに違いない。

どこに費用と時間をかけるべきかを間違ってしまったことで、結果的に20億円規模の損害賠償請求に発展することとなり高い授業料となってしまったわけである。

FTO調査を入念に行っていれば、他社の特許を侵害している事実が事前に経営層にも伝わることで、自社開発自体をストップする経営判断が取られていたことであろう。

自社開発プロジェクトを担当していた社員は取り返しのつかない風評被害と損害を会社に与えることとなってしまったわけである。その責任は大きい。

外食産業においても近々同様の訴訟や損害賠償請求が頻繁に行われていくものと容易に予測できることからそういったプロジェクトに関わっている社員は自衛のためにも入念にFTO調査を行い少しでも特許侵害のリスクがあれば経営に対して早期に報告をあげておくことでリスクヘッジを図る必要があろう。

また、そういった知財対策に関して「脇の甘い業界」を狙って、海外のパテントトロール企業が類似特許を国内企業から買い取り、自社開発を行っている企業に奇襲をかけてくることも大いに想定できる。

彼らからすれば(ITに疎い外食産業のような業界でDX化が進行すればするほど)まさにおいしい楽園が広がっているようにも見えているはずである。

特にこれから自社開発を進めていこうという段階にある外食大手企業数社は注意をして今後の戦略を練っていく必要があるであろう。

具体的には一度立ち止まり、専門家による入念なFTO調査を通した上でリスクレベルジャッジや特許保有企業との権利交渉やライセンス交渉などを進め、外堀を固めた上で進行可否を再協議すべきであろう。