IT・システム分野における特許権侵害訴訟事例

日本国内においてはまだ聞き慣れない特許権侵害訴訟。

米国やEU圏内においてはそれらのニュースを聞かない日はないほど日常茶飯事のように特許訴訟裁判が頻繁に行われている。

しかし、それらの紛争の多くは実は表には出ていない。ニュースとなる事案は公開されている事件つまり裁判、訴訟に発展したものであるが、実はそれらの案件数は全体の約1割、つまり氷山の一角にも満たない。

多くは裁判沙汰に敢えてすることなく両社で和解の道をたどることとなる。

特許侵害において特許権から提示される和解条件は様々である。その多くは莫大な和解金と特許技術の使用停止、もし相手側が有効な特許を保有している場合はクロスライセンス供与などによる解決となる。

いずれにしても特許権者のなすがままであり侵害をしたとされる側はなす術はない。

よって市場参入を図る企業においてパテントチェックは非常に重要な役割を持つ事となる。

しかしながら、国内においてはまだまだ事例も少ない事からそれらの脅威も意識も投資額も海外に比べて圧倒的に低いと言わざるを得ない。

それらのツケが家電や半導体業界において日本メーカーがこの20年で韓国、中国、台湾と言ったIT先進国に大きな遅れをとる事に繋がったというのは過言ではない。

特許を取得する企業の目的は様々である。

国内メーカーが特許を出願、保有する主な目的は自社の技術、知的財産権の保護である。

今やその矛先は国内企業のみならず海外企業にも向けられている。最近では台湾や中国、韓国といったIT先進国に向けた牽制と防御を目的とした出願も増えてきている。

もうひとつの目的としてはライセンスビジネスとなる。国内ではSONYやSANKYO社などが有名であるが、特許をライセンスとして同業界の他社や海外企業に譲渡したり、防御策としてのクロスライセンスとしてお互いに有効となる特許を持ち合ったり、保有する特許を貸し出したりすることで莫大な利益を生んでいる。

IT分野における特許出願規模や保有数における世界のトップとなる中国、米国ではその市場規模は数十億~数百億ドル規模とも言われ、特許をビジネスとして捉える企業も少なくはない。

そういった背景から、グローバルでビジネス展開を図る企業だけでなく、ここ数年国内におていもIT分野を中心に訴訟に発展する例も表に出る事例も増えてきている。

今や特許訴訟は大手企業だけの話題でなく中小やベンチャー企業も当事者となり得ることも例外ではない。

ここでは主に国内、海外における直近での特許訴訟事案を中心に紹介しながら、どのような規模の訴訟事案があり、彼らがどういった対応を求められたのかを具体的事件の内容を知ることで、順番待ちシステムのような参入機器の多いシステムの比較検討を行う際のリスクヘッジ分野での基礎知識として頭に入れておきたい。

国内の特許侵害訴訟事例

和解金による解決事例

コロプラ VS 任天堂「白猫プロジェクト」に関する特許権侵害訴訟 33億円で決着

顛末

コロプラ社が任天堂に対して、任天堂が保有する特許侵害について和解金33億円を支払い、任天堂が本件訴訟の訴えを取り下げることとなり決着した。

株式会社コロプラ(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:馬場功淳、以下「当社」)と任天堂株式会社(以下「任天堂」)は、当社のスマートデバイス向けゲームアプリ「白猫プロジェクト」に関する特許権侵害訴訟(東京地方裁判所 平成29年(ワ)第43185号 特許権侵害差止等請求事件、以下「本件訴訟」)について、和解することに合意

特許権侵害訴訟の和解成立のお知らせ | 株式会社コロプラのプレスリリース

株式会社コロプラのプレスリリース(2021年8月4日 15時05分)特許権侵害訴訟の和解成立のお知らせ

発端

コロプラが発売するゲーム内において、タッチパネルでキャラクターを移動させる「ぷにコン」などについて、特許権の侵害だとして、任天堂が2017年12月に提訴していた。

客観的見解

コロプラ側の軽薄な市場参入時のリスクチェックの甘さと知財対策に関する意識の低さが招いた結果と言える。

知らずに侵害していたでは当然ながら済まず、使用開始から遡って莫大な賠償金を支払うはめとなった。

ある意味、一定期間カモを泳がせて仕留める任天堂の知財部門の思う壺であり、彼らの狡猾な餌食になってしまったと言っても過言ではない。

コロプラとしては3年間の莫大な裁判費用も捨てる事となり大き過ぎる代償を支払う事となった。

ユニクロ VS アスタリスク セルフレジ特許裁判

顛末

ユニクロによるアスタリスクの特許侵害の訴えが大枠認められ、知財高裁によって2021年5月20日に出された。その結果は、請求項1から4の全てが有効(正確に言うと、審決の取消により特許庁での審判が再開し、特許庁において最終結論が出されることになる)。これに対して、ファーストリテイリング側は、2021年6月2日、最高裁に上告を行った。従って、この審決はまだしばらくは確定せず、侵害訴訟の中止状態が続くものと思われるがユニクロの形勢は良いものではないと見られる。

更新情報

高等裁判所判決によりユニクロの敗訴が確定し、和解の上で特許権侵害を認め請求取り下げの動き

ユニクロのセルフレジに対する特許権侵害訴訟の最新情報について(栗原潔) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ITソリューション開発企業のアスタリスクという会社が、ユニクロ(およびGU)店舗で使用されているセルフレジが自社の特許権を侵害しているとしてファーストリテイリング…

焦点は?

「言われてみれば自明だが誰もやっていなかった」のは強力な特許の証。

これは「順番待ちシステム」領域の知財にも大いに影響しうると考えられる。あたりまえのように使われている仕組みや技術にこそ特許が認められるべきであるということがある意味最高裁によっても明らかになったともとれる。

他社も同じように使っているではないかという幼稚な論理は一蹴される事となった。

確かに特許を取得、保有している企業からすれば「あたりまえのように他社もやっている」「あたりまえのように使われている」というのは一切その特許を侵害する理由にはならず、特許庁も知財保護を各国内企業に掲げる以上見過ごす事はできない。

当たり前の技術にこそ知財保護の対象となるとお墨付きを与えた形とも見て取れる。

既に順番待ちシステム領域においても事前の我々の調査においては、大手数社が参入初期段階からベースとなる基本技術を中心に着々とその周辺領域の特許を機能単位で抑えて来ていることがわかった。

一方でそれ以外の数十社の企業の知的財産権領域の特許はほぼ確認されていない。

大手数社が前半にも挙げたライセンスビジネス観点での知識や経験を既に社内に有しており、現時点で敢えてそれら既に抑えている技術や機能について、知らずに参入、模倣している競合他社の特許侵害可能性を敢えて泳がせているとすればそれは非常に練られた戦略であるとも考えられる。

コロプラによる任天堂の特許侵害における和解金の計算式にはその権利を無断で使用した期間とそれにより失われたであろう想定利益が掛け合わされ算出されていることは明白であるが、敢えてその侵害期間を(泳がせておくことによって)過去に遡り長く設定し、またその期間を使い侵害側企業が営業活動によって増やした取引量と利害関係者つまり導入先となるクライアント規模が大きくなったタイミングを見計らってアクションを起こすことも十分に想定される。

つまり、その間の取引額が特許権を保持する企業が本来得られたであろう利益とイコールまたはそれ以上に該当するとした計算式を可視化しやすい構図を形成する為に。

既に外部から見て類似性が高いと見られる機能を実装し(実装時期をさかのぼり証明するエビデンスにもなるとは知らず)プレスリリースまで丁寧に実施している企業も散見されていることから、今後それらの特許権者数社による競合他社への特許侵害裁判(発展への)の行方は注目を集めていくであろう。

2022年更新情報

ユニクロの敗訴で決着。遂に高等裁判所での判決が出た模様

この判決は今後の国内特許関連裁判の方向性を左右する重要な判決となることは明白である。つまり特許権者がコストと時間をかけ開発し更にコストと時間をかけて特許登録したものに対してあたりまえのように権利が守られなければならず、それが否定されてしまうと、それらの特許権保持に費やした行為は全くの無駄であり、一方特許庁や法曹界にとってもそれら知的財産権を保護し、クライアントの権利保持のために費やしてきた労力や時間は意味をなさないこととなる。それをある意味無駄ではない、意味を成すものとして証明された結果となった。

特許権は資本や権力の有無によって左右されるべきではなく、開発したもの、権利を保有しているものが何よりも正当化されるべきであるという裏付けともなったとも言える。

実際のところはこの案件では明らかにはなっていないが、仮に流通企業側がテスト導入としてメーカーの機器を自店舗に仮導入し、その間に動作や仕様などの情報を得た上で自社で開発または第三者の開発企業にOEMで発注し製造をさせる行為は競争社会の中では1つのずる賢い方法論ななのかもしれないが、そういった行為を行う企業や個人は法で罰せられることがある意味明らかとなったのではないだろうか。

更に悪質な事例としてはメーカーが市場に投下する開発段階において流通企業側が共同開発と称して開発に形式的に加わり、商談や会議等を通じて仕様などある程度を要件定義ができる範囲で情報を得た上で、初期仕様設計などを行ったメーカーとは違う第三者などに情報を違法に横流しし、自社で開発してしまうといったケースが国内でも過去にも係争事例としてあったが、これらも今回の判例を以て特許権者が保護されることとなるものと推察される。

また、アスタリスク・ユニクロ裁判では現在ライセンス会社がアスタリスクから権利を買取り、裁判を引き継いでいるが、アスタリスクがユニクロの自社開発により失ったであろう期間と台数分の費用が損害賠償額として提示されており、その額は約20億円にも上ることが明らかとなった(期間が数年ということで販売ではなくレンタルとした上で損害賠償額を算定し金額を確定させるあたりはさすがはプロのライセンス企業である。レンタルFee1日1,000円×5,000台×365日=約19億。これは裁判が長期化すればするほど年数が加算され膨らんでいくであろうと推察)。

ユニクロにとって20億円という損害賠償額は高いものではないであろうが、金銭的負担よりもそういった行為をメーカーに対して行ったという対各レジメーカーや仕入先企業への見え方、一般顧客からの風評側面では金額以上の大きな損害となると想定される。

ユニクロは現在最高裁への上告を行っているようであるが、その行為自体も一般消費者や各メーカー、仕入先企業各社から見てどう映っているのかは想像に難くはないのではないだろうか。国内の流通企業における自社開発や製品開発、名目上の共同開発のやり方を見直すべきターニングポイントになる大きな判決であったことは言うまでもない。今後注視していきたい。

【更新情報】ユファーストリテイリングと、大阪市のIT会社アスタリスクは2021年12月24日、「ユニクロ」や「GU(ジーユー)」のセルフレジに使われる技術を巡り双方が起こした特許権侵害の訴訟と、特許庁への無効審判請求を全て取り下げることで和解が成立したと発表

事実上ユニクロの敗訴が確定し和解金で決着

今回の係争の裏側を含め週間文春が記事として取り上げ大きな反響となった模様である。業界内外に大きな反響を与えた。

《セルフレジ特許訴訟、和解成立》「女房の貯金を崩して株主総会に行ったけれど…」ファーストリテイリングは、なぜ裁判を長引かせるのか――2021年BEST5 | 文春オンライン

2021年(1月~12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。シェア部門の第3位は、こちら!(初公開日 2021年7月5日)。* * * 蓋を閉めずに会計…

この判決結果(高等裁判所の判決及びユニクロによる上告取り下げと和解受け入れ)を受け、今後更に以下(今回の判決のポイントとなった決め手)が知的財産権分野において影響力を及ぼすことになると思われる。

「言われてみれば自明だが誰もやっていなかった」のは強力な特許の証。

これは「順番待ちシステム」領域の知財にも大いに影響しうると考えられる。あたりまえのように使われている仕組みや技術にこそ特許や権利が認められるべきであるということがある意味最高裁によっても証明されたともとれる。

順番待ちシステム領域には様々な権利が技術や権利が混在しているが、業界内では特にEPARK社が2000年代以降(リクルート社は2017年以降)取得している順番待ちの仕組みを形成するベース特許各種の効力が業界内外に大きな影響を及ぼすことが考えられる。

自社開発を行う予定のある流通企業や順番待ちシステムを導入予定の企業や施設は特にこの点を注意をし施策を進行することが自社を守る上で重要であり、今回ユニクロ側は短期間で敗訴を確定させたことで推定20億円+α(風評)で決着(手打ち)させたものの、やけどでは済まされないことが明らかとなったことは経営側面での大きなリスクヘッジであり教訓(教材)として捉えるべきであろう。

海外の 特許侵害訴訟事例

恒久的差し止め命令事例

韓国 ソウル半導体VS競合13事業者 

顛末

特許侵害の競合13社(ブランド)に恒久的差し止め命令が下った。

同社のWICOP技術をめぐる特許侵害訴訟で米ニュージャージー州連邦地方裁判所が恒久的差し止め命令を下したと発表した。WICOPはシンプルな構造のパッケージフリーLED技術で、世界の自動車の10%、テレビ用ディスプレーの20%に採用されている。今回の判決では自動車用ライトの13ブランドの特許侵害製品に恒久的差し止め命令が下された

【ビジネスワイヤ】韓国の発光ダイオード(LED)メーカーのソウル半導体は、同社のWICOP技術をめぐる特許侵害訴訟で米ニュージャージー州連邦地方裁判所が恒久的差し止め命令を下した

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070600455&g=bnw

パテントトロール事例

英国 Optis Cellular Technology社 VS アップル

Engadget | Technology News & Reviews

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顛末

アップルが英国からの撤退を示唆

Optis Cellular Technology社がアップルに対して、自社の「標準化された」スマートフォン技術(3GおよびLTE関連の特許)を使用したことに対して70億ドル(約7700億円)ものライセンス料の支払いを拒否したため、特許侵害で提訴。これに対して先月、英国の高等裁判所はアップルに特許侵害があったと認定。

これに対してアップル側の弁護士は、もし裁判所がiPhoneで使われている技術に対して「商業的に受け入れられない」特許使用料を支払うよう強要すれば、英国市場から撤退する可能性があると警告。

「パテント・トロール」のターゲットになるとどんな通知文が届くのか? - GIGAZINE

「パテント・トロール」とは、抽象的で曖昧な内容の特許を取得しておいて、他社に対して「自社の特許を侵害している」と訴訟を起こしてお金を巻き上げようとする者のこと…